過程的なノート

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分析事始め

デカルトの『方法序説』と『精神指導の規則』はクリティカル・シンキングを例に、批判的な考察をする上でとても参考になる。金子勇は『社会分析』において、前掲載の二書をあげて、デカルトの「知識の実践的性格」をしっかり把握することが「社会分析」に大きな意義をもつといっている。

方法序説
四規則
明証性(即断と偏見を避け、疑う余地がない)
分割性(問題を出来るだけ多くの部分に分ける)
順序正しい総合性(単純なものから複雑なものへ順序正しく考察する)
枚挙性(見落としをしないようにすべてを見直す)
金子勇著『社会分析』「第1章社会分析の視点と方法」より引用)


『精神指導の規則』

規則第一
研究の目的は、現れ出るすべての書物について確固とした真実な判断を下すように精神を導くこと、でなければならない。

規則第二
それの確実不可疑の認識を我々の精神が獲得しうると思われるような対象にのみ、携わるべきである。

規則第三
示された対象について、他人の考えたところ或はわれわれ自ら憶測するところを、求むべきでなく、われわれが明晰かつ明白に直観しまたは確実に演繹しうることを、求むべきである。何となれば他の途によっては、知識は獲得されないからである。

規則第四
事物の真理を探究するには方法(Methodus)が必要である。

規則第五
方法全体は、何らかの真理を発見するために、精神の力を向けるべき事物の、順序との配置に存する。しかして、複雑な不明瞭な命題を、段階を追うて一層単純なものに還元し、しかる後、すべての中最も単純なものの直感から始めて、同じ段階を経つつ、他のすべてのものの認識へ、登り行こうと試みるならば、われわれは正確に方法に従うことになるであろう。

規則第六
最も単純な事物を複雑な事物から区別しかつ順序正しく探求するためには、若干の真理を他の真理から直接に演繹して成り立ったところの、事物の系列の一つ一つについて、何かが最も単純であるか、どんなふうにに他のすべてのものがこの単純者から、或はより多く、或はより少なく、或は等しく、隔たっているかを、観察すべきである。

規則第七
知識を完成するためには、われわれの目的に関係ある事情をすべて一つ一つ、連続的な、どこにも中断されていない、思惟の運動によって、通覧し、かつそれらを十分な順序正しい枚挙(enumerastio)によって総括すべきである。

規則第八
探求すべき事物の系列において、われわれの悟性の充分に直観しえぬ何ものかが現れたならば、そこに停まるべきである。そしてそれに続く他のものを吟味することなく、無益な労を避くべきである。

規則第九
精神のすべての力をきわめて些細な容易な事物に向けるべきである。そして、われらが真理を判明に明瞭に直観するに慣れるまで、長くそこにとどまるべきである。

規則第十
精神が推理力をえるためには、すでに他人の見出した事柄を探求することに習熟せねばならない。そして人間の技術を、いかに些細なものでも、方法に従って、通覧せねばならない。就中、順序を提示しまたは前提にしている技術を通覧せねばならぬ。

規則第十一
われわれがいくつかの単純な命題を直観した後、それらから何か他のものを推論する場合には、連続的な、どこにも中断されていない思惟の運動によって、それらを通覧し、それら相互の関係を反省し、そして出来る限り多くを同時に、判明に把握すること、が有益である。なぜなら、そうすることにより、われわれの認識が以前よりも遥かに確実となるとともに、精神の把握力も大いに増大するからである。

規則第十二
最後に、悟性、想像力、感覚、記憶の与えるすべての助力を用いるべきである。或は単純な命題を判明に直観するために、或は求めるものを既知のものと正しく比較して前者を知るために。つまり人間の用いうるいかなる手段をも、閑却してはならないのである。

規則第十三
問題を完全に理解したならば、それをすべての不必要な表象から分離し、最も単純なものに帰着せしめ、枚挙によって、出来る限り小さなる部分に分割すべきである。

規則第十四
上の問題を物体の実存的延長に移し、あらわな図形(figura)によってすべてを想像に呈示すべきである。なぜなら、かくすればそれを以前よりはるか判明に悟性は覚知するであろうから。

規則第十五
またこれらの図形を描いて外部感覚に呈示し、かくしてわれらの思惟がより容易に注意を保ちうるようにすることも、たいていの場合、有益である。

規則第十六
たとえ推論のためには不可欠であっても、精神のさしあたっての注意を必要とせぬ事柄は、完全な図形によって表示するよりも、きわめて短い記号によって表示する方がよい。なぜなら、かようにすれば、記号は誤ることがなく、しかもその際思惟は、一方で他の事柄の演繹に向かいながらなお上のことをも心に留めようとして分散させられるということがないからである。

規則第十七
提示された困難を直接的に通覧すべきであるーそれのある項が既知であり或る項が未知であるということを度外視し、それらの一が他に対してもつ相互依存の関係を真の途によって直観することにより。

規則第十八
そのために必要なのはただ四つの操作のみである。加法、減法、乗法、除法。この中、後の二つは、ここではしばしば、行わずにおくべきである。それは無益な錯雑を避けるためでもあり、また後に一層容易に行いうるがゆえでもある。

規則第十九
この推理の方法に従って、二つの相異なる仕方で表現された量を、未知項ー直接的に困難を通覧するためわれわれはこれら未知項を既知と仮定するーの数だけ、求むべきである。かくしてわれらは二つの相等しい量の間の比較を、未知項の数だけ、うることになる。

規則第二十
それらの方程式(aequationes)が発見された後は、今では行わずにおいた諸”の操作を実行すべきである。しかもその際、除法が可能であるならば決して除法を用いずに。

規則第二十一
そのような方程式が多数あるならば、すべてをただ一つの方程式に帰着せしむべきである。すなわち、よって以って諸項が順序正しく排列せらるべき、連比をなせる諸量の系列において、より低い段階を占めるところの項をもつ方程式、に帰着せしむべきである。
デカルト著、野田又夫訳『精神指導の規則』(1974)岩波文庫、より引用)




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2022年6月12日に誤字◦脱字を直しました。